初めての主役で新撰組の土方歳三を演じる銀ちゃんは、命の危険が伴う「池田屋の階段落ち」をどうしてもやると言って聞かない。もちろん実際に落ちるのはスターの銀ちゃんではなく、大部屋役者のヤスだ。
銀ちゃんが大好きなヤスは一も二もなく話を受けるが、監督は浮かない顔。しかし銀ちゃんの申し入れをはっきり断ることもできない。
そんな折り、銀ちゃんは小夏を連れてヤスのアパートを訪れ、「おりいって頼みがあるんだよ」と切り出した……。
第86回(1981年下半期)直木賞受賞作。
評価=☆☆☆☆☆ (5つ星が満点)
1981年の直木賞受賞者は、上半期が青島幸男(放送作家・タレント)、下半期がつかこうへい(劇作家)、どちらも本業が小説家ではない人。こういうのは小説を専門に書く作家さんから不満の声が上がったりしないのかな。
それはともかく、前半は「ヤス」の口調で、後半は「小夏」の口調で、「銀ちゃん」こと倉丘銀四郎を語りますが、文句なしに巧いです。
そして物語の世界にすーっと入っていけます。想像力を駆使する必要がない。場面が自然と目に浮かびます。やっぱり劇作家だな。
銀ちゃんもヤスも人格的にはグジャグジャな男だし、二人に関わった小夏という女の人生もグジャグジャになっていくけど、小夏は女のしたたかさで、状況の変化に順応して何とか生きていけそうな気がする。
男ふたりは脆いなあ。
銀ちゃんの自己主張の強さは、鉛筆の芯の固さを思わせ、ひとたび事が起これば簡単にポキッと折れそうだし、なんでヤスはあんなに卑屈なんだろう。
真っ当な人たちの真っ当な物語としてストレートな面白さがあった、青島さんの
『人間万事塞翁が丙午』に比べると、こちらはグジャグジャなぬかるみにザブザブ入っていくような話で、なんだか不幸っぽいけど面白い。
深作欣二監督によって映画化されてます。出演は松坂慶子、風間壮夫、平田満。
