荒涼とした景色の中にそびえる二つの屋敷は、〈嵐が丘〉、〈鶫の辻〉と呼ばれている。
〈鶫の辻〉を借りることになったロックウッドは、〈嵐が丘〉の住人が本の余白に書き残した日記のような文章を見つけ、強く興味をひかれた。この二つの屋敷にはどんなドラマが隠れているのか? 〈鶫の辻〉で長く働いているディーンおばさんなら、なにか知っているに違いない。
ロックウッドの狙いは当たった。おしゃべり好きのディーンおばさんは、〈嵐が丘〉の主人に拾われて育ったヒースクリフと主人の令嬢キャサリンとの愛憎劇を語り始める。
評価=☆☆☆ (5つ星が最高点です)
うーん。これが名作か。
たしかに19世紀においては画期的な小説だったのでしょうね。それが現代まで読み継がれて、新訳も出たわけですから、やはりこれは「歴史に残る名作」と呼ばねばなりません。
中身はお昼の連続ドラマみたいです。人間のエゴイスティックな部分をぐわぁーっと拡大して、どーんと大盛りにして提供してくれる。家庭内暴力やら育児放棄やら、そりゃもうイヤになるほど名作ですわ。
新潮社さんでは本書を「恋愛小説」と位置づけていて、たしかに恋愛っぽい場面もあるにはある。たとえばヒースクリフとキャサリンが手に手をとって涙にくれながら口づけをかわしたりとかもするわけです。
病床のキャサリンは余命いくばくもない。ヒースクリフは誇れる家名も財産も持たず、いくらキャサリンを愛しても結婚など夢のまた夢。
ならば残り少ない二人の時間を最後の一秒まで大切にすごせばいいではありませんか。
しかし二人は別れの辛さに耐えかねて、「なんて図太いのかしら! わたしが死んだあと何年生きるつもり?」とか、「おまえ、悪魔にでもとり憑かれているのか? 死にかけているってのに、俺にそんな口をきくとは」とか、もう言いたい放題、やらずぶったくりのデスマッチです。
だいたいにしてヒースクリフは別れが辛くなるほど魅力的な男なんだろうか? どうも私にはわからない。
まあ彼のねじくれた性格は不幸な生い立ちが一因であり、同情の余地もないことはない。
それにキャサリンは幼い頃からヒースクリフと一緒に暮らしているので、物心ついたときには「好き」という気持ちが理屈抜きで心の中に根をはっていたとも考えられます。
そこへヒースクリフに心ひかれる女がもうひとり現れて、駆け落ちを真剣に考え始めるから話が厄介になる。
でもヒースクリフは暗い顔をして、しじゅう怒ってばかりいるし、ときには暴力もふるいます。こんな輩のどこがよくて女はメロメロになるのか。
キャサリンもかなり打算的な女。財産のないヒースクリフとは結婚できないから、お金持ちの男と結婚して、ヒースクリフとの関係を維持しよう――てなことを考えます。そういうことを屋敷内で堂々と人に話すもんだから、ヒースクリフの耳にも入ってしまう。
ヒースクリフはキャサリンへの愛が実を結ばないと知ると、いっそう性格が荒れます。さらにページが進むに従って、どんどん彼の不気味さが際立ってくる。
恋愛小説というよりゴシックホラーみたいな感じ。ヒースクリフの周囲も怒りっぽい人ばかりだし、子供たちはワガママで小ずるいし。
そして病人や死人がやたらと多い。人々は怒っているうちに多量のストレスが溜まるのか、急に倒れます。しかも病状が怖ろしい速さで進行する。
ちょっと待てよ、何の病気だかわかんないよ! そう心の中で叫ぶ私をよそに、あっという間に恋人たちは涙の別れとなるわけですから、なんかもう感情移入も何もあったものではありません。
そしてキャサリンとヒースクリフが抱えた愛憎は次の世代へ受け継がれ、さらに昼ドラ的なストーリーが続いていく。
もういい加減にしろって感じですが、そもそも本書に繊細な心理描写や、現代人の心に響くリアリティを求めて読むのが間違ってるんですね。
まるでジェットコースターのように激しく上下する強烈ストーリーに身を任せ、何も考えずに読みすすむのが正解。
本書を下敷きにして書かれたのが
水村美苗【本格小説】だそうですが、こちらの日本版ヒースクリフのほうが危険な魅力にあふれていると思います。どっぷり浸る読書を堪能できます。やや長すぎる前置きで取っつきにくい感じもありますが、少なくとも☆4つは付けたい。
しかしそれも本家本元のヒースクリフがあってこその話。【嵐が丘】の文学的な価値は認めます。
でも純粋に好き嫌いだけで言えば、☆1つぐらいかな……。
さて今回は鴻巣さんの新訳で【嵐が丘】を読みました。なんだかジャリジャリした手触りの訳文ですねえ。もともとジャリジャリした原文なのでしょうか。まあ何とも言えませんが、気になったことを一つだけ。
「ドアを明ける」という表記が2箇所ぐらいありましたが、ドアは「開ける」ものではないでしょうか?

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『嵐が丘』
E.ブロンデ 『嵐が丘』(角川文庫)、読了。
「ついていけない…」というのが正直な感想。
たしかに壮大な物語なのかもしれないが、
登場...
[2008/11/09 00:01]
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