渡辺淳一【遠き落日】 

貧農に生まれ、左手の大火傷にめげず黄熱病や梅毒の研究に打ち込み、のちに千円札の肖像となった細菌学者・野口英世。

「偉人」として語り継がれる彼の生涯を、虚飾なく描く伝記。


遠き落日〈上〉 (集英社文庫)遠き落日〈上〉 (集英社文庫)
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遠き落日〈下〉 (集英社文庫)遠き落日〈下〉 (集英社文庫)
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「金のことなら心配すんな、ここにたっぷりある」

野口英世はアメリカ行きを前に、太っ腹な発言をして豪勢な送別会をひらきます。



……ちょっと待て。その金は


アメリカ行きの旅費じゃないかーっ!


そう言って英世を止める人はいません。お互いに大人なんですから、本人が「心配すんな」と言えば、それ以上は誰も詮索しないでしょう。

旅費を出してくれたのは英世の婚約者の親でした。しかし英世は切符も旅行カバンも必要な衣類も買わないうちに、お金の大半を使ってしまいます。このまま出発せず、お金を返さなければ結婚詐欺だと言われても仕方ない。

青ざめた英世は「どうしてもアメリカに行きたいんです! 助けてください!」と恩師に泣きつき、大金を用立ててもらって、ようやく日本を発ちました。



英世の人生、とくに若いころは、学費や旅費を人に用立ててもらう→使いこむ→泣きつく、この繰り返しです。多少のお金なら泣きつけば何とかなると思っている。お金に対する執着心が薄い。

そもそも「大金持ちになりたい」というより、「オレをバカにした連中を見返してやる」という気持ちが強いようです。

火傷のせいで不自由な左手を笑った連中を見返してやりたい。オレが東京帝大を出てないせいで差別待遇をした北里伝染病研究所のやつらを見返してやりたい。

そういう気持ちで英世は一心不乱に勉強し、下着は替えず風呂にも入らず髪もボサボサという不衛生な状態になっても気にしません。医者なんだから気にしてもらいたいですけどね。

北里研究所では見習助手なのに負けん気が出て、一丁前に研究をしようとして先輩たちに叱られます。

英世は「北里研究所で差別待遇を受けた」と感じていますが、見た目が汚くて態度が大きければ、人に好感を持たれるはずがありません。



それでも能力が人より飛びぬけているのは確か。英世は語学が達者で、研究所に外国から来客があると通訳を任せられます。そこで従順に仕事をこなすだけでは満足せず、有名な教授へ必死に自分を売り込む。

そして相手が「アメリカで勉強するのもいいでしょうね。まあ頑張ってください」ぐらいの儀礼的な意味で言った言葉を真に受けて、英世は本当にアメリカへ渡ってしまいます。

金を用立ててくれる人、優しい言葉、自分を売り込むチャンス、それらを英世は絶対に見のがさず、食らいついて離しません。

「貧困をものともせず、世のため人のために尽くした」という清く正しいイメージとは程遠い、生々しいエネルギーにあふれた英世の姿が本書にはあります。

しかし英世の研究結果には重大な誤りがありました。どう間違っているのか分からないまま、英世は異国の地で命を落とします。その「重大な誤り」については、福岡伸一【生物と無生物のあいだ】でも取り上げられています。



さて妄想キャスティングを書こうかと思いましたが、野口英世というと千円札の肖像が頭に浮かんで仕方ないですね。

野口英世



……いや、待てよ。もしかしたらとっくに映画化されているかもしれない。

そう思って調べてみると、このようなDVDがありました。英世に三上博史、英世の母シカに三田佳子という配役になっています。


遠き落日遠き落日
(2006/07/29)
三田佳子、三上博史 他

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[2007/10/16 17:28] わ行の作家 | TB(0) | CM(0)

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