青森県金木町(現:五所川原市)で大地主の六男として生まれ、弘前高校から東京帝大へと進んだ青年は、やがて作家・太宰治となり、数度の自殺未遂を繰り返した果てに入水心中をはかって世を去った。
謎の多い人生を膨大な資料をもとに解明する評伝ミステリー。
たぶん高校生のときだと思いますが、国語の教科書に『富嶽百景』の一部分が載っていました。
井伏鱒二の世話で山梨県の石原美知子という女性とお見合いをすることになった太宰が、井伏と二人で山に登るんですね。
太宰は麦藁帽子をかぶりドテラを着たムサ苦しい姿。井伏の颯爽とした軽装を見ると、自分の姿がいかにも恥ずかしい。すると井伏が、男は見た目なんか気にするな、といった意味のことを言って云々……という部分だったと記憶しています。もしや誤記があるかもしれませんのでご容赦を。
とにかく国語の教科書で読んだ太宰の姿は「これからお見合いだし、オレは作家としても一人の男としても頑張って生きていくぞ」みたいな、すごく前向き感にあふれた印象がありました。
井伏鱒二も若手の作家にお見合いを世話してやるなんて、いい人だな〜、なんて思ってました。
あのとき、授業では『富嶽百景』をやらなかったのですが、いま【ピカレスク――太宰治伝】を読んでみて、授業でこれを取り上げなかった先生の気持ちが分かるような気がします。
太宰は学生時代から作家になりたいと思い、同人誌をつくったり、作家に自分の作品を送りつけたりして、積極的に自分を売り込みますが、その一方で何度も自殺未遂を繰り返します。一人で自殺を図ったこともあるし、女性と心中しようとして自分だけが生き残った悲惨なケースもある。
前述のお見合いは、そういった数々の事件の後のことだったんです。
最終的には妻でない女性と玉川上水で心中し、命を絶ってしまいます。
太宰と井伏鱒二との関係も、手元の電子辞書を見ると「太宰は井伏鱒二に師事した」と書いてあるけど、本書ではこの二人の関係が「師匠と弟子」であるようには読み取れません。
井伏自身が生活の糧を得ることで手一杯で、とても太宰みたいな厄介な男の面倒をみる余裕はなかったようです。太宰の実家から「井伏先生、お願いします!」と言われ、断りきれず、仕方なく……といった感が強い。また、小説のネタに詰まった井伏は、太宰が薬物中毒に苦しんだ日々のことを本人への断りなしに書いてしまうんです。とても師匠らしくない。
まあネタ探しでは太宰も苦慮しており、かなり大胆な方法で小説の題材を入手しています。もし訴訟を起こされたら太宰が負けると思う。
とにかくムチャクチャな人生です。
「ムチャクチャだぁ!」と呆れながらも、まるで芸能人のスキャンダル記事を読むような感覚で面白く読んでしまいました。それはきっと私が太宰治という作家にも、太宰の作品にも深い思い入れがないからでしょう。太宰治ファンを自認する人には、冷静に受け入れがたい本かもしれません。
本書を映像化したら面白いだろうなと思いまして、やはり太宰を演じるのは豊川悦司さんあたりか……と月並みなキャスティングを考えていましたら、すでに映画化されてました。
河村隆一さんが太宰治を演じています。
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[2008/01/01 06:46]
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