新宿二丁目でギターをかかえて歌う「カイ」は筋金入りのレズビアン。
女たちはカイの歌を聴いて、ひびわれた心を潤す。カイは一人の女に狙いを定めて声をかける――おなかすいたね。なにか食べにいこうか。
その後のことは女たちにとってカイの歌ほどには甘くない。
それにしてもレズビアンのジゴロは大変そうです。男と女が出会って意気投合したらラブホテルへ行けばいいけど、女どうしでは入りづらい――言われてみれば確かにそんな気がします。
カイが利用するのは女どうしでも入りやすい、感じの良いラブホテルだけど、これは著者の想像の産物かな? 実在するとしたら都会だろうな。田舎の埃っぽい道路っぷちにこんなラブホがあるとは思えない。レズビアンのカップルだけでラブホ経営が成り立つかどうかも分からないし。
感じの良いラブホなら男女のカップルも利用するし、充分に経営できるんじゃないの……と本書を読みながら考えましたが、それはレズビアンの心情を解しない不粋な言葉でありましょう。やはりラブホは男女用・レズビアン用が別であるべきなのでしょう。
そんなわけでカイの赤革の手帳には、「使えるラブホ一覧」とか、「美味しいものを食べられる店リスト」など、ジゴロの必須アイテムとでもいうべきものが記してあります。
しかし携帯電話を持っていない。一般的には携帯電話こそジゴロにとって必須中の必須アイテムなのに、カイは携帯電話が本命の恋人との仲をおかしくした原因だと感じており、とうてい持つ気にはなれません。
ではカイは過去の恋人を忘れられないがために他の女性と夜な夜な遊んでいるのかというと、それは違う。本命の恋人とは同居中なのです。
「一人の女を愛するために百人の女と寝ることもある」とカイは豪語し、恋人とのねじれた関係さえも女の同情を引くための武器にする。
カイと女との関係は最初から袋小路。それを知っていながら女たちは恋の終わりに苦しみ、あがき、「あなたって最低ね」みたいな言葉を吐いちゃう。そこで「そうさ最低さ」と確信犯的に開き直るカイに、つける薬はありません。
だけどカイにはカイの事情がある。重荷がある。本命の恋人との暮らしは重いもののバランスをとりながらでないと成立しません。
カイに遊ばれた女が結婚生活にどんな不満を持っていようと、どんな孤独を抱えていようと、そんなことをカイは斟酌していられない。恋人との暮らしで抑圧されたものがある分、外ではパーッと好き勝手にしていないとやりきれないんですね。
なんとも厄介な恋愛模様ですが、結末は意外なほど明るくて低湿度です。