松井今朝子の作品は、【似せ者】を読んだきりご無沙汰だった。
江戸時代の歌舞伎役者たちの世界を描いた小説で、墨絵に血の赤を一点、ぎらりと落としたような感触が好きだけど、その「ぎらり」にたどり着くまでが長い。まるで江戸時代の歌舞伎役者の生態を学ぶ教科書を読まされてるような感があった。
そんなわけで、しばらく遠ざかっていた松井作品だが、新聞の書評欄かなにかで本書が紹介されたのを見て食指が動いた。
これは読んで正解。じつに面白い。墨絵に赤を一点なんて生易しいものではない。あざやかな錦絵に毒々しい紅を浴びせるかのような、恐ろしくも美しい物語。
吉原一の名妓と謳われながら突如として姿を消した、花魁(おいらん)の「葛城」。その足取りを一人の男が追う。しかし葛城を知る人々は、そう簡単に真実を話してはくれない。
なにしろ吉原は遊郭である。男と女が化かし合う街である。美しい嘘を楽しむ場所である。
吉原で遊ぶには、それ相応のお金が必要だし、一定のマナーも必要だ。知性も理性も放り出して女を押し倒すだけの男は軽蔑される。
しかし遊女たちはどうか。
いくら相手が裕福な男でも、知性と教養にあふれていても、最終的には肉体労働となることに変わりない。当たり前だが、人気のある遊女ほど労働量は過酷だ。遊女の中でもトップクラスの「花魁」の座に登りつめても、歳をとれば引退を余儀なくされる。運がよければ男に「身請け」されて吉原を去ることもできるが、花魁になる前に身体を壊して生涯を終える女もいる。
そうとわかっていて、遊女にならざるを得ない女たちがいる。
嘘と真実の狭間から見えてくる女たちの姿は、したたかで哀しい。
北村先生は長いキャリアをお持ちでいらして、今回の直木賞選考ではファンの皆さんの期待が高まりましたね。ただ、純粋に作品だけを比べた場合、私は『玻璃の天』では弱い気がしました。ほかにもっと良い作品があるんじゃないでしょうか? まぁそういった文学賞の話は私にとって雲の上の出来事でして、世間話のネタにする程度です。直木賞のことはともかく、すっげー面白いから皆さん読んでね、と言いたいです。
[2007/08/09 10:24]
ぱんどら
[
編集 ]
ぱんどらさん、こんにちは。
何で北村さんじゃなかったんだ〜という個人的な不満を持って読んだんですが(苦笑)
それを忘れてしまう面白さでした。
吉原という全く知らない世界を丁寧に案内してもらいつつ、吉原で生きる人々の生き様を感じさせられて充実の読書でした。
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