池澤夏樹【花を運ぶ妹】 

伊坂幸太郎【陽気なギャングの日常と襲撃】に、「麻薬を少量もっているだけで実刑で、下手をしたら死刑になる国」の話が出てくる。

そういう国が本当にあるかどうか知らないが、「南米の国らしい」と書いてある。



池澤夏樹【花を運ぶ妹】は、


麻薬を持っていて逮捕され、死刑になるかもしれない男


の話である。舞台はバリ島。男の名前は西島哲郎。画家。



妹のカヲルが兄を救うべくバリ島へ飛ぶ。

パリでコーディネーターの仕事をしているカヲルは、英語とフランス語を話せて、頭がよくて強くて可愛らしい女。

それでも現地の警察には歯が立たず、日本領事館も頼れそうにない。



息苦しいようなバリ島の暑さ、空気の匂い、花や海の色などが行間から立ちのぼってくるようだ。

哲郎が麻薬に手を出してしまった状況も濃密に描かれる。

絶望的な状況の中、カヲルが懸命に道をきりひらいていく姿がカッコいい。



池澤夏樹は芥川賞の審査委員で、このまえ伊藤たかみが受賞した第135回芥川賞の選評では、「なんでこんなにビョーキの話ばかりなのか?」と書いていた。

暗い話、泣ける話、フリーターや引きこもりや暴力やイジメの話、そんな小説って確かに多い。

世情を反映していると言えば、そうかもしれないが、じゃあ私たちは暗い話を読んで、泣いて、その後はどうすりゃいいのか。

答えを教えてくれとは言わないが、考えるヒントとか、サンプルとかを示してくれたっていいじゃないか。「ビョーキ」を治す話があってもいいじゃないか。

かといって安易なハッピーエンドはつまらないし、優しいだけの「癒し系」なんて要らない。



本書は厳しさと強さと本当の癒しがある小説。

東南アジアへ旅をするのがお好きな方にもお勧め。




花を運ぶ妹 花を運ぶ妹
池澤 夏樹 (2000/04)
文藝春秋
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[2006/09/01 14:08] あ行の作家 | TB(2) | CM(2)

TBありがとうございます!

私はまだまだ未開拓の作家さんが多く、池澤夏樹さんも未読です。記事を読んでとっても興味がわきました。読んでみようと思います。
[2006/09/03 12:57] りこ [ 編集 ]

欧米とアジア

池澤夏樹の小説は、パッと視界を広げてくれたり、
新たな視点を与えてくれるので好きです。

芥川賞も彼が選考委員を務めるかぎり安心。
と思ったらやっぱり重鎮には勝てず、苦戦しているみたいですね。
選評を読んでいませんが。

[2006/09/02 07:57] かつき [ 編集 ]

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たとえば、バイオミミクリ

かつて僕たちは、自然に対して畏怖の念を持っていた。それがいつからか知性に依って生きる道を選んだ。
[2006/11/11 00:36] URL 渋谷アントレ日記2006

『花を運ぶ妹』 池澤夏樹

第54回(平成12年)毎日出版文化賞受賞作。イラストレーターとして世間に認められている兄・哲郎。一年の半分を旅で過し、インスピレーションの源にし始めた哲郎はヘロイン中毒に転落していく。バリでおとり捜査に引っかかり、人権もないような留置所へ。ソルボンヌに..
[2006/09/02 07:59] URL 猛読醉書