中学生のときから駅伝大会で華々しい記録を打ち立ててきた岡崎優が、スポーツ推薦で大学に入学。
いよいよ活躍の場を箱根駅伝へ移そうかというとき、優は人生を左右する重大な秘密を知る。
陸上選手のストレートな青春物語かなと思ったら、中核にあるものは意外に重い。
これは駅伝の話じゃなくて、家族の話です。
本を読み進めていくと、ちょうど中ほどでその「中核」にドーンとぶつかり、岡崎優くんの家族が抱えている問題が明らかにされます。
そのあと問題をどう処理するかというところで、ストーリーが力を失っちゃったな。生煮えのカレーみたいなもんです。カレールーが溶けないままお鍋の中にゴロンと残ってしまったような。
問題の重さのわりにページ数が少ないので、どう決着をつけてくれるのか、注目していたんですが……。
これでは足りない。
むしろ岡崎優くんの父親を主人公にして、もっともっと長く、深く突っ込んで書いてくれたら面白いかもしれないなぁと思いました。
エリート公務員がスーパーマーケットへ出向させられ、民間の荒波にもまれて一皮むけるというお話。織田裕二の主演で映画化され、話題を集めた。
そこまで知っていて、わざわざ本を読む必要もないなぁ……と思っていたが、図書館をフラフラしていたら目についたので借りてきた。
まず巻末の著者略歴を見る。「大妻女子大学卒業」とある。そうか。この人は女性か。「桂望実」という名前の字づらが男性っぽいので、てっきり男性だと思い込んでいた。(ちなみに読み方は「かつらのぞみ」である。ひらがなで書くと女らしい感じがする)
なにごとにおいても自分勝手な決めつけはいけない。
最初のページに戻って読んでみる。これで面白くなかったら、別の本を読めばいい。図書館から借りてきた本は他にもある――
ふと気づいたら半分ほど読み進んでいた。
視点がくるくる変わって、わかりづらいという難点があるし、結末はだいたい予想がつく。
が、その結末へどうやって到達するんだろうか……という興味にかられた。
また、私のような妄想読書人にとっては、頭の中で映像化しやすい作品が楽しい。
主人公の「野村聡」を演じるのは織田裕二をおいて他にない。もちろん、本を読むより先に映画の話を知っていたから、そういうイメージが頭の中にできあがるのも当然だが。
傲慢なエリートの表情、ものごとが思い通りに進まなくて憮然とした表情、余分なプライドを捨ててスーパーの店頭で立ち働く生き生きとした表情。
織田裕二以外の役者が思い浮かばない。ユースケサンタマリアじゃダメだ。
面白かったのは、スーパーマーケットに「食品Gメン」が現れる場面。従業員たちはイヤホンと受信機と小型マイクで、客に気づかれないように連絡を取り合う。
イヤホンを耳につっこんで片手で押さえながら険しい表情を浮かべる「野村聡」を織田裕二が演じる姿を想像すると、『踊る大捜査線』の青島刑事そのものである。
んー。『踊る大捜査線』の音楽ください。
主人公の「野村聡」と同じくらい重要な役柄の「二宮泰子」を、映画では柴咲コウが演じたと聞く。
スーパーのパート従業員の二宮泰子は、小説ではバツイチで40代で、息子が一人いて、ちょっと人生に疲れた感じの女性。
泰子は俳句サークルに通っている。性格が悪いから優しい句を作れないのかもしれない……と悩んでいると、俳句サークルの仲間が言葉をかけてくれる。
≪女が一人で生きていくのはたいへんですよ。ましてお子さんがいればねぇ。不安や心細さを剥き出しにしていたら、痛くてしょうがないでしょう。何枚もの気持ちを重ねてガードしなきゃ、毎日は過ごせないわ≫
心にしみる言葉である。
この場面が映画『県庁の星』にあったかどうか知らないが、仮にあったとして、柴咲コウのような若い女優でしみじみとした情感が出せるものだろうか。
だからといって映画を批判する気はない。映画と小説とは別々の作品なのだ。そんなふうに最初から割り切っていれば腹も立たない。
ただ、やっぱり二宮泰子は、もう少し年上の女優でもよかったかもしれない。
誰がいいかなぁ……。
んー。原日出子。どうですか。
