20世紀初頭のロシアで地主の息子として生まれた少年の成長物語
……と読めないこともないけど、美しい話には程遠く、獣じみた少年の傍若無人ぶりに呆然としつつも目が離せず、最後までひきずられるように読みきってしまいました。
「ミノタウロス」とはギリシア神話に出てくる半人半牛の怪物で、ミノスの王妃が牡牛と通じて生んだ子、だそうです。広辞苑にありました。
この少年、地主の息子なのでお金はあるんですよ。学校には行くし、本も読むし、外国語もいくつか操れる。周りの大人たちを「素町人(すちょうにん)」と蔑むぐらいの知性はある。
だけど皮一枚むけば獣のごときものが顔を出します。どうせなら獣になって森の中にでも棲めばいいのだろうけど、そうもいかない。獣じみてはいるが、あくまでも人間。それがこの少年にとっては不幸なんでしょうね。
ただし戦争中なので、周りの人々もどこか壊れていて、略奪や殺人や強姦が横行しています。獣じみた人間たちは戦争という仮想の森の中で、食うか食われるかの乱闘を繰り広げているわけです。
読者に感情移入をさせる隙は一切ありませんね。
アマゾンのレビューでは「大河小説」と紹介されていて、もちろんその通りなんですが、感覚的に言えば、堤防が決壊して物凄い勢いで押し寄せる濁流のごとき小説、といったところです。
ただただ圧倒される作品でした。
貴族の末裔である双子の兄弟が、酒と女に溺れて没落していく話――と言ったら、みなさんドン退きですか。
いや、これは面白いです。著者の発想の豊かさに敬意を表したい。
「双子だ」と思ってるのは当人たちだけで、周りの人々は彼らが双子だとは少しも思っていない。彼らを心から理解しているのは、いとこのマグダレーナと、義母のベルタルダだけ。
なぜこういう状況なのか。それを知りたい方は本書を読みましょう。
しかし貴族ってのは落ちぶれていく様も実に優雅。
そして悲壮感が薄い。この兄弟、ボロを着てても顔はイケメンなので、ぎりぎりのところで救いの手をさしのべてくれる女性が登場する。それを自分でわかっているから、どうにかなるよ、と心のどこかで思っているのかも。
こういう男性とはお近づきになりたくないけれど、小説で読むのは面白い。
双子の視線と意識が絡み合うようにして話が進み、読んでいて混乱するけど、それもまたよし。
作者は書いてて混乱しないんですかね? するわけないよね、単細胞な私と違うもの……。