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犬がいっぱい出てくる小説 【ベルカ、吠えないのか?】の「猫的アンサー」が本書らしい。 三島由紀夫賞の受賞作。 古川日出男については、三島由紀夫賞の受賞会見でのコメントが面白くて、つい 妄想記事を書いてしまった。 あれからずいぶん時間が経って、ようやく受賞作を読んでみた。 【アラビアの夜の種族】を読んで圧倒された私は、しばらく「古川日出男休暇」をとっていたのだ。 こわごわと【LOVE】をひらいてみる。 ……きゃーっ! 文章が、普通だわーっ!!【アラビアの夜の種族】や【ベルカ、吠えないのか?】に比べたら、ルビの量がぐっと少ない。 すごく「普通」。あまりにも「普通」。 でもストーリーはよくわからない。 これが「猫的アンサー」と言われれば、そんな気もしないでもないけど、うーん……やっぱりよくわからない。 【ベルカ、吠えないのか?】については「愛犬家にはお勧めしない」と書いたけど、本書【LOVE】も愛猫家の皆様にはお勧めしない。 でも、古川日出男にしか書けない独特の世界がある。それは凄いことだと思う。 私とは相性がよくないけど、古川日出男ファンにはたまらない作品ではないかな。
古川日出男が【LOVE】という作品で三島由紀夫賞を受賞した。 読売新聞に書いてあったが、受賞会見での言葉がすごい。 「文章は常にラブソングだ」
「周りの世界が僕をつぶそうとしたら殴り返す」
こういう言葉を、静かなバーかどこかで女に語りかける男って、なんだか村上春樹の短編小説みたいだね。 パーティーが終りかけた頃、僕は彼女を誘って同じホテル内のカクテル・ラウンジに移り、そこに腰を据えて話のつづきをすることにした。彼女はフローズン・ダイキリを注文し、僕はスコッチのオン・ザ・ロックを注文した。
「文章は常にラブソングだ」
「周りの世界が僕をつぶそうとしたら殴り返す」
村上春樹【象の消滅】から一部分を拝借してみたが、けっこうハマると思いませんか。 さらに続き。 しかしそれを口にしたその瞬間に、僕は自分がそのような状況にとって最も不適当な話題をひっぱりだしてしまったことに気づいた。
「ねえ、私にはよくわからないわ」と彼女は静かな口調で言った。
その話は知りあったばかりの若い男女が語りあうには話題としてあまりにも特殊だったし、それ自体が完結しすぎていた。僕が話し終えると、しばらく二人のあいだに沈黙が下りた。
そんなわけで、福島県出身で早大を中退し演劇に表現の場を求めながらも「自分の持つイメージが舞台に収まりきらず」20代半ばで作家を志した古川日出男によく似た作家・フルカワヒデオ(仮名)は、「おやすみ」と言って彼女と別れたのであった。 まぁ村上春樹の世界だから、まだ穏やかなものだけれど、これが角田光代の作品だったらどうか。私の妄想は暴走する。 「文章は常にラブソングだ」「周りの世界が僕をつぶそうとしたら殴り返す」とフルカワヒデオ(仮名)に言われた女は 「びゃはははははははははっ」とバカ笑いして、腰かけていたスツールから転げおち、「あんた、バッカじゃないの?」などと言いそうだ。映画化の折りには、この女を、ぜひ小泉今日子に毒々しく演じてもらいたい。 さらに東野圭吾ワールドならば。 「文章は常にラブソングだ」「周りの世界が僕をつぶそうとしたら殴り返す」とフルカワヒデオ(仮名)に言われた女は とびきり美人で、とびきり悪女ということになるだろう。女はアーモンド形の瞳を妖しく輝かせ、「この男は使える」と思う。 男は陰惨な殺人事件の片棒を担がされるのかもしれない。 奥田英朗の小説だったら。 女に向かって「周りの世界が僕をつぶそうとしたら殴り返す」と口走るフルカワヒデオ(仮名)の隣に、あの 伊良部医師が座っているかもしれない。 高いスツールで足をブラブラさせながら、「きみ、ちょっと被害妄想の傾向があるね。ぼくの病院に来てみたら? 注射してあげるからさ」と言い出し、だーい好きな注射を打てる悦びに胸をおどらせるかもしれない。 うーん。フルカワヒデオ(仮名)と女の出会いが、いっこうに実を結ばないぞ。 大沢在昌のハードボイルドな世界だったらどうですかね。 いや、だめだ。バーで出会った女の正体はテロリストで、店に爆弾をしかけているかもしれない。フルカワヒデオ(仮名)は 店ごと吹き飛ばされて「ジョーカー」が駆けつけたときには「時すでに遅し」かもしれない。 ……すみません。 これらはすべて私の妄想であり、実在する古川日出男さんとは何の関係もございません。 三島由紀夫賞に輝いた古川日出男さん、本当におめでとうございます。 でも受賞作の【LOVE】を、まだ私は読んでいません。 【アラビアの夜の種族】に圧倒されたまま、まだ回復していないんです。いまは「古川日出男休暇」の日々でございます。 休暇明けに拝読させていただきます。
いつだったか、夜中に目がさめて、なんとなくテレビをつけたらドキュメンタリー番組をやっていた。 ある職人の話。残念なことに、その人には技術があっても商才がない。お金がなくて材料を買えないのだ。でも品物をつくって展示しなければ注文が来ない。そこで、借金をして材料を買い込み、品物を出品した。 ところが思ったように注文が来ない。支払を催促されてもお金がない。 職人が自宅から離れた仕事場で製作に打ち込むとき、自宅では、妻が集金人に支払い延期の言い訳をしなければならない。 そういうことが何度も、何度も、何度も続く。 ついに妻が根を上げ、泣きながら職人の仕事場へ駆け込んだ。 すると職人は、「ここからは家族の問題だから、入ってくるな」と言って取材を拒否し、カメラの前でぴっちりと戸を閉ざした。 そこで番組は終わってしまったのだ。 テレビを見ている私の気持ちはものすごく複雑であった。 ・えっ! もう終わり!? 続きが見たいよ〜! ・でも、取材拒否したい気持ちもわからないではない。 ・だったら最初から取材なんか受けなきゃいいのに。 この3つが頭の中をぐるぐる回った。 いちばん強かったのは、正直に言っちゃえば、 続きが見たいという気持ち。 CM明けに「後日談」が文字で出るんじゃないかと思って、しばらくテレビを消せなかったほどだ。 あたしって、ただのヤジウマよね。 人が生きるということは、それぞれの「物語」をつむぐこと。 つまり、人間は一冊の書物。 さまざまな書物の中でも、不幸のフレーバーが多めで、幸福と不幸の間を激しく往復するような物語は、やっぱり、どうしても、他人の興味をひきやすい。 とくに、その書物が 災厄(わざわい)の書と呼ばれるものだったら、あのナポレオンも興味津々で、読み出したら夢中になって、さきを読まずにはいられなくて、エジプトを攻めることさえ忘れてしまうかもしれない。 そんなふうに、エジプトのアイユーブという若者は考えて、自分の主人に提案する。 ナポレオンは、フランスからエジプトへの3日ほどの航海のため、船内に図書館をつくり、2万5千冊をこえる本を積み込んだほどの本好きだ。 繰り返すけど、 たった3日の航海で、 2万5千冊の本だよ。 いくらなんでも 読めるわけがない。ナポレオンって、そうとう変人である。 優秀なアイユーブは、そこに目をつけた。 これまで「災厄(わざわい)の書」に触れた者たちは、あまりに魅惑的な内容にひきつけられ、その書と「特別な関係」に陥って、姿を消してしまったという。 その禁断の書をフランス語に訳してナポレオンに読ませ、フランス軍を破滅させようと、アイユーブは主人に進言する。 主人は、アイユーブ自身が「災厄(わざわい)の書」と特別な関係に陥るのではないかと心配するが、若くて頭がよくて自信満々のアイユーブは、大丈夫です、と言い切る。 そして計画は、エジプトの片隅で密かに遂行された。 こんなアイユーブの物語が語られながら、あまりに魅惑的な「災厄(わざわい)の書」の中の物語が進行する。 読み始めたときは、なにがどう魅惑的なのか、私にはよくわからなかったが、後半はだんだん心配になってくる。 アイユーブくん。きみはそんなに自信たっぷりで大丈夫なの? いや、心配じゃないな。ヤジウマ根性。 この本、やばいよ。 私が本を読み進めるスピードもどんどん上がってくる。 古川日出男の独特の文体。ルビは多いし、カッコ書きの注も多い。決して読みやすくはない。 わざわざ「悪い」と書いて「にくい」と読ませなくてもいいでしょ。「憎い」って書けばいいじゃん! 「睡眠」って書いて「ねむり」ってルビをふるくらいなら、「眠り」って書けばいいでしょ。 と、ちょっとイラつくこともあるけど。 さきを読みたい! この続きはどうなる? 結末はどうなる? ページをめくる手が止まらない。 読みたいかたは、それなりの覚悟をして、どうぞ。 ☆文庫版が出ています。
この本、もっと早く読むべきだった。 世間では大評判であることを知りながら、「早く文庫化されないかな〜」とセコいことを考え、ようやく最近になってハードカバーを買うふんぎりがついた【ベルカ、吠えないのか?】。 おもしろいです。 ベルカは犬なのね。本の表紙も、犬が大口あけてる写真。でも、お犬ちゃんにお洋服きせちゃうような愛犬家のかたには、この本を強くお勧めしない。 この本に出てくる犬たちは、どいつもこいつも本能まるだしで生きている。肉を食いちぎり、発情して交尾する。愛犬家の感覚で「カワイイ〜♪」と叫ぶには、あまりにも生々しいのである。 私は愛犬家でも愛猫家でもないので(鳥も金魚もハムスターも飼ってない)、けっこう冷静に本を読めた。 この本を読む前は、犬の顔がいっぱいに写された表紙を見て「犬に愛情べったりの小説だったら、べつに読まなくてもいいなぁ」と思っていたくらいで……。だからこそ本を手に取るまで時間がかかったのだが。 さて本を読んでみると、最初に謎の老人が登場する。 「アマチュアだよ。君たちは全員、アマチュアだ」というセリフが似合う冷徹で鮮やかな仕事ぶり。 こ……こいつはプロの仕事だ……! あんたはゴルゴ13か。いわば、「ゴルゴ13 with 犬たち」とも言える、老人と犬との深い関係。それを語るには、第二次世界大戦とか、アメリカとソ連の冷戦といったあたりから話を始めなければならない。 ……あ、もちろん私が説明したって仕方ないので、ぜひ本で読んでいただきたい。 他ではあまりお目にかかれないタイプの小説。そんなに長編でもないのに、読みすすめるのに時間がかかった。 たとえば 東野圭吾【白夜行】は850ページぐらいあって分厚い本だが、こちらのほうが読むスピードは速かった。 読みながら、「こんなふうになるだろうな。こうなったらヤバいな」と予想がつき、その予想どおりに、ヤバい方へヤバい方へと進む。「そっち行くなよ! ヤバいよ!」と思うけど、もちろん止められない。 うああああ、おっかない……と思いながらも、怖いもの見たさで、どんどん読みたくなる。 いっぽう、344ページしかない【ベルカ、吠えないのか?】だが、私のようなヘタレ本読みの安易な予想を許さない。「どっひゃー。そういう展開ですか……」という驚きがある。 文章も独特で、読みにくいとは思わないけど、「慣れ」は少し必要かな。 古川日出男という作家さんはルビが大好きなようだ。 たとえば―― なか 内側 そと 外側 ひと 他人 とし 老齢 はな 嗅覚 バック 後退 ちんぷんかんぷん 無意味 フレッシュ 新鮮 ――など、別に漢字つかわなくても、「なか」は「中」でいいし、「ちんぷんかんぷん」はそのまま書けばええやん、と思うんですが。 まぁ使い方にもよるだろう。たとえば「新鮮」を「フレッシュ」と読ませたところは、死体の話である。これをルビなしで書くと ・死体が一つ。ただし、新鮮ではない。 ・死体が一つ。ただし、フレッシュではない。 どちらも不謹慎な感じがする。 ルビを多用するやりかたも「あり」と言えば「あり」なんだろう。 ……そういう細かい話はともかく。(すみません、つい細部に目がいっちゃって) 人よりも犬のほうがカッコよく見える不思議な小説。とくに、オオカミの血が半分はいってる犬神(アヌビス)という犬が凄かった。
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