恩田陸【ロミオとロミオは永遠に】 

アキラとシゲルは、故郷の期待を背負って厳しい入学試験を勝ち抜き、栄光の「大東京学園」の門をくぐった。

それは入学試験を上まわる過酷な競争のスタートであった。あまりの辛さに脱走を試みる者は後を絶たず、取り締まりを強化する学園側とのイタチごっこが続いている。

はたして学園のカリキュラムに従い卒業総代をめざすことが、本当にエリートへの道なのか? 疑問を持ったアキラとシゲルは、学園の深部に分け入り、これまで明かされなかった秘密を目の当たりにする。


ロミオとロミオは永遠に (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)ロミオとロミオは永遠に
(ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

(2002/11)
恩田 陸

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評価=☆☆☆☆  (5つ星が満点)


地球は環境汚染が進み、日本人に許された仕事は廃棄物処理だけ。サブカルチャーは一部の伝統芸能を除いて全て禁止された近未来社会。

フィクションとはいえ、作家さんにとっても、読書を愛する人々にとっても笑えない状況です。

しかし序盤でいきなり


「卒業総代になりたいかーっ!」


ときて、「大東京学園入学選抜ウルトラ・クイズ」が始まりますからね。最初は早押しです。ピンポーン。

ライトノベルの味わいです。全編にちりばめられた昭和サブカルチャーの断片が微妙な笑いを誘います。

しかし殺傷や拷問のシーンは女性作家が書いたとは思えぬ凄惨さ。もし映像化するなら多少の調整は必要でしょうが、アニメーションではダメですね。昭和サブカルチャーをリアルに再現してほしいので、やはり実写でないと。

陽性の『バトル・ロワイアル』とでも言える仕上がりになるかもしれません。

バトル・ロワイアルバトル・ロワイアル
(2001/09/21)
藤原竜也、前田亜季 他

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というわけで妄想キャスティング。

華麗で端正な美少年の「アキラ」に……やっぱり藤原竜也、かなあ。

藤原竜也


成宮寛貴でもいいかも。

成宮寛貴


「大東京学園入学選抜ウルトラ・クイズ」の場面には、やはり福留さんをお呼びしましょう。

ニューヨークへ行きたいかーっ!

福留功男


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[2008/05/04 00:31] 恩田陸 | TB(0) | CM(0)

恩田陸【猫と針】 

喪服姿の30代後半と思しき男女5人が密室で語り合う心理サスペンス。

「演劇集団キャラメルボックス」のために恩田陸が初めて書き下ろした戯曲に、「『猫と針』日記」を加えて単行本化。


猫と針猫と針
(2008/02)
恩田 陸

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評価=☆☆☆☆  (5つ星が満点)


恩田陸の小説で最近よくみられる「密室座談会」形式には、わたし個人としてはやや食傷ぎみです。「じゃあ読まなきゃいいだろ」という話ですが、お芝居の地方公演は少ないし、せめて戯曲だけでも読めるなら読んでおいたほうがいいのではないかと考えたわけでした。



登場人物は、サトウ、タナカ、ヤマダ、スズキ、タカハシと、どこの地域の電話帳でも多くのページを割かれていると思われる名字ばかりです。しかもカタカナ表記。

どのセリフが誰なのか区別しにくい状態。それがある種の効果を上げていると思います。

人間どうしが話しているというより、5つの影がうごめいているような、いつの間にか影が6つ7つと増えているような、そして思わず自分の背後を振り返りたくなるような、恩田作品独特の薄気味悪さが漂います。

また、登場人物5人の居場所が読み始めの段階ではよく分からないんですね。彼らが喪服を着ていることから、読み手の想像は自然とふくらみますが、そこにちょっとした罠があります。

戯曲でありながら小説的な楽しみ方ができますね。

お芝居でも、おそらく舞台装置はシンプルで一見しただけでは場所の見当がつかないでしょうから、観客の予想をみごとに裏切ってくれるのかもしれません。



でもこの結末はどうだろう……。小説だったら賛否両論あるでしょう。私は一味たりないと思う。

ただし、お芝居では余韻を残した結末になりそうで、うーん、やはり劇場で見たかったなあ。DVDは出ませんかね?



「『猫と針』日記」では、初の戯曲に挑む恩田さんの並々ならぬ苦労がしのばれます。

公演は8月22日から始まるのに脱稿は8月15日という凄まじさ。書くほうも大変でしょうが、演じるほうも心身ともにタフじゃないと務まりませんね。



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[2008/04/14 16:07] 恩田陸 | TB(3) | CM(0)

恩田陸【木洩れ日に泳ぐ魚】 

僕らは明日になったら右と左に分かれて歩き出すことだろう。

しかし、どこかできちんと話をしておかなければならないように思う。そうしなければ、この先それぞれの人生を歩いていくことができないだろうということも。

僕は彼女に白状させなければならない。彼女があの男を殺したのだと。彼女の口から、今夜中に。


木洩れ日に泳ぐ魚木洩れ日に泳ぐ魚
(2007/07)
恩田 陸

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評価=☆☆  (5つ星が最高点です)

今月から、読んだ本に☆の数で評価を付していこうと思います。私の好みとか本との相性とか、そんな感覚的なことで☆の数を決めます。皆様のご意見と異なる場合も多々あるかと存じますが、どうか大らかな気持ちでご覧くださいませm(__)m



先月このブログでご紹介した、恩田さんの【黒と茶の幻想】と同じで、本書もキーポイントは人間関係にあります。

いや、キーポイントというか……それしかない、というか。複雑な人間関係の説明に終始しちゃってる感がありますね。

かつて男と女の間には愛があったのに、その愛を成就させられない事情があり、今では「彼女があの男を殺したのではないか」「彼が殺したのではないか」と互いに疑念さえ持ち合っている。

あの男とは誰なのか。愛を成就させられない事情とは何か。そもそもこの男女―― 千浩と千明 ――は、どういう関係なのか。

それが分かると小説が終わっちゃいます。



あのねえ……たぶん私の好みとは逆なんです。

愛を成就させられない事情は、わりと早めの段階で語られてほしいんです。

だけど愛情はそう簡単に消せない。だからこそ当事者は苦しみ、傷つく。そういう感情が読み手の心にジワジワしみてくる小説であれば、私もどっぷり浸って泣いちゃったりするわけですが……



なんだか訳が分からないけど苦しそうな男女がいる、ではなぜ苦しいのか、正解はこれです――という話の展開。正解を知って、「ああ、そうですか」と納得して読み終わって、あとは特に深い感動が残りません。

まあ相当に複雑な事情を抱えた二人ですから、きっと苦しいには違いない。でもその苦しみが鮮明に伝わってこないんですよね。



むしろ脚本家さんが味つけして、生身の役者さんが演じると、コクのある作品になるのかなあと思ってみたり。

というわけで妄想キャスティング。

運命に翻弄される女、「千明」に本上まなみ。

すでに他の作品の妄想キャスティングで本上さんが登場しているような記憶もありますが……でも私の中ではイメージ的に合うので、あえて本上さんでいきたいと思います。

本上まなみ



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[2007/12/03 15:13] 恩田陸 | TB(13) | CM(8)

恩田陸【黒と茶の幻想】 

利枝子、彰彦、蒔生(まきお)、節子。大学時代の同級生4人が再会し、都会の喧騒を離れて緑あふれるY島へ旅に出た。

彼らは思い出話に花を咲かせつつ、過去に解けなかった謎をそれぞれの胸に秘め、真実を探り出すチャンスを伺う。


黒と茶の幻想 (Mephisto club)黒と茶の幻想 (Mephisto club)
(2001/12)
恩田 陸

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おそらく「Y島」は屋久島ですね。そのまま屋久島って書けばいいのに……と思いますが、小うるさい読者から「小説中のあの記述は現実の屋久島と違うぞ」とクレームが来ることも想定されますし、Y島としておけば「屋久島によく似た架空の島です」と言い訳できるでしょう。

それにしてもY島に住むシカが4人の旅行者をぴたりと見すえるシーンは、ジブリアニメ『もののけ姫』を思い出させますねえ。

独特のムードにあふれた本書の核心にあるものは、学生時代をともに過ごした男女4人の一種異様な人間関係。そこに愛情友情憎悪悲しみ寂しさ嫉妬優しさ喜び裏切り怒り諦観憧憬執着不実疑念……などなど様々な感情が密林のごとく絡みついてます。さらに周囲を妄想や皮肉や薀蓄や小ネタといったモチーフがびっしりと埋めつくし、まるで密林の地面を覆う苔のよう。

核心にたどりつくまで少し長いのですが、「うわっ、そう来るか!」という衝撃があって、面白いことは面白いです。

ただ、地面から10cmぐらい足が浮いているような現実感のなさは如何ともしがたい。

利枝子、彰彦、蒔生、節子。男2人に女2人。美男美女ぞろい。昔、いろいろあった間柄です。高校卒業から20年。いい大人になった彼らが再会し、「旅行に行かないか」という話が出て、本当に実現してしまう。

普通、そういう関係で旅行なんか行く気になります? 酒の勢いで誰かが冗談半分に「旅行いこうぜ!」と口走ることはあるかもしれないけど、実現するかどうかは別でしょう。時間やお金といった物理的な問題があるし、気持ちの問題もある。

私だったらメンバーの中に元カレがいたら絶対にお断りです。(きっと向こうもお断りだと思うけど)



さて上の4人の中で最も厄介な人物は蒔生で、その過去を読み解くのに重要なのが、彼らと同じ大学に籍を置きながら女優としても活動していた梶原憂理という女の存在。

皆と一緒に旅に出れば、乗り物の中で、宿泊先で、あるいはY島の森の中で、憂理についていろいろ訊かれることぐらい、蒔生には想定できたはずです。だけど行っちゃうんだな、Y島に。

私は行きませんよ。元カレがいるというだけでもうダメだし、他の人たちに「あのとき、なんであの人とああいうことになったの?」なんて根掘り葉掘り訊かれるなんて冗談じゃありません。



ところが蒔生は一筋縄ではいかない男です。孤独癖があって自己中心的だけど、そういう部分を隠して周囲と如才なく付き合う術を知っている。自分の心に常にバリアーを張っているわけです。そのくせ自虐趣味があって、ほんの少し嗜虐趣味もある。

蒔生は彼らとの心理戦を楽しんでいるふしがありますね。

Y島の旅が終わるまで、蒔生のバリアーが他の3人をけちらすのか、それとも他の3人がY島の幻想的な空気も手伝ってバリアーを打ち破るのか。

でもバリアーを破ってすべてを知っても、彼らが幸せになれるとは限りません。むしろ知らないほうが幸せなこともある。

こういう旅は小説だけで結構です。



妄想キャスティング。

「蒔生」に東山紀之。

東山紀之


回想シーンにのみ登場する「梶原憂理」に鈴木えみ。

鈴木えみ



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[2007/11/17 23:48] 恩田陸 | TB(8) | CM(0)

恩田陸【Q&A】 

郊外の巨大ショッピングセンターで災害が起こった。火事か? 有毒ガスか? 悲鳴を上げて逃げまどう人々。携帯電話が通じない。渋滞する道路。センター周辺は騒然とした空気に包まれる。

この一件で多数の被害者が出た。では加害者は誰か。原因は何か。

関係者に問いかけられる質問とその答えから、目に見えぬ悪鬼の姿が浮き彫りにされていく。


Q&AQ&A
(2007/04)
恩田 陸

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この本、いかがでした?

「ひとことで言えば『不穏』ですね。小説としては面白いです。でも読後に腹の底がザワザワして……」

妄想キャスティングできそうですか?

「難しいです。『ショッピングセンターで何が起こったのか』が気になって、どんどん先を読みたくなりました。関係者の一問一答から役者さんの顔をイメージしている余裕はありません。どの人物が主人公なのかもよく分からないし」

質問する人が主人公ではないのですか?

「うーん。答える人たちの氏名や職業は明かされますが、質問する人は誰だか分からない。途中で入れ替わってるようだし。人というより影がいくつも現れたり消えたりする感じ。人の気配はあっても目鼻が見えません」

結末はどうですか? 恩田さんの作品は結末で「ありゃりゃ」と思う人と、「これでいい」という人と、分かれることが多いですよね。

「私はこれでいいと思います。現実にありそうな怖さに満ちた作品だから、ラストは現実ばなれしてないと、怖くて眠れません。リアリティを求める人は小説じゃなくて、ルポルタージュや新聞を読めばいいんです」

ははは。怖がりなのか強気なのかよくわからない人ですねえ。作品中で印象に残った言葉はありますか?

「関係者の一人が、初めてショッピングセンターを見たとき『なんだかこの店、墓石みたいだな』って思った、と言うところですね」

ぱんどらさんは郊外型の巨大商業施設をよく利用しますか?

「いいえ。あんまり広すぎて、どこに何があるか分からなくて不便だし、都会のデパートと違ってゆっくり品物を見る気がしない。落ちつかないんですよ。早く用事を済ませて家に帰ろうって思います」

墓石だと思いますか?

「いやー墓石とは言わないけど、派手に看板とか出てるわりに、うら寂しいというか。とくに夜には行きたくないですね。宮城県南部の某商業施設に行ったときは驚きました。建物の裏にまわると山があって、夜空に月がポッカリ浮かんでて、タヌキでも出るかと思った」

あれ? お住まいは宮城県北部でしょう。ジ○○コ、ありますよね? わざわざ県南に行ったんですか?

「友達と一緒でしたから。映画を観ようってことで」

大型スーパーマーケットに映画館が併設されているところは多いですね。買い物もレジャーも一箇所で済んで便利でしょう。

「だけど、そういう施設のせいで昔からの商店街は完全にさびれました。地方の経済をおかしくしたのは、ああいう商業施設じゃないですかね」

中規模の街に住んでいるから、そんなことが言えるんです。ジ○○コ以外のお店もありますよね? もっと田舎のほうはお店が少ないから、大きな商業施設ができて有難いとお思いのかたも多いでしょう。

「それはそうですけど……。駅の自転車置き場で高校生のものらしい自転車が並んでるのを見ると、どれも色や型が同じなんです。みんなジ○○コで同じ自転車を買うんじゃないでしょうか。どこの家でも冷蔵庫にジ○○コの自社ブランド『ト○プバ○ュー』の牛乳とか冷凍食品とかが入ってるのかな、なんて想像したりしてね。これで病院や葬祭会館が併設されたら、まさに『ゆりかごから墓場まで』ですよ」

ぱんどらさんのご職業は何ですか? 小売店を経営なさってます?

「いえ、会社員ですけど。それが何か?」

あなたが巨大商業施設に対して肯定的な見方をしないのは、なにか個人的なわだかまりでもあるせいかと思いまして。たとえば巨大商業施設のせいでお店の経営がふるわないとか。

「そんなものはありませんよ」

宮城県南部の某商業施設に行ったとき、一緒だったお友達は男性ですか? 女性ですか?

「え? ああ、男性です」

そのかたとは今もお付き合いしてらっしゃる?

「いいえ。あのとき映画を観て……その後ぐらいから関係がギクシャクしちゃって。映画の感想が彼と私とで大きく違うのも気になってました。それに二人でいても自分のスケジュールだけは絶対に守りたい人で、携帯電話のアラーム音が鳴るんです。落ちつかなかったなぁ」

アラーム音ではなくメール着信音だったかもしれませんね。

「私以外の女性からのメール? ははは。いま思えばそういう可能性もありますね。なぜアラーム音だと決めてかかってたのかな」

現実を認めるのが怖かったからじゃないですか?

「そうかなあ……」

彼が本当に他の女性と関係があっても、あなたが失恋するとは限らない。彼にちゃんと愛情を注ぎ、落ちついて構えていれば、そちらの女性が身を引くこともありますよ。たとえあなたが失恋しても、「お幸せに」と言ってきれいに別れられるんじゃないですか?

「そうですね。自分に自信がなかったというか。最初から『どうせ私は……』みたいな感じで付き合ってたかもしれません。映画の感想だって人それぞれ違って当たり前ですし」

うら寂しいとか落ちつかないとか、それは商業施設のことじゃなくて、あなた自身の心だったかもしれませんね。被害者意識をあんまり肥え太らせないほうがいいですよ。

「この本の登場人物みたいに、あるところでは被害者なのに別のところで加害者になっちゃうかもしれませんよね」

ところで血に染まった縫いぐるみを持ってた女の子は、どこへ行ったんでしょう?

「どこでしょうね。みんなの被害者意識が一斉にあの女の子へ向けられる危険性が示唆されてましたけど……」

悪鬼は人の心の中に棲んでいるのかもしれませんね。

「なんだか寒気がします」

それは本のせいじゃなくて風邪かもしれませんよ。

「何事も思い込みは禁物ですね」



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[2007/10/24 16:24] 恩田陸 | TB(7) | CM(2)

恩田陸【朝日のようにさわやかに】 

静かな日常をガラリと塗り替える不気味さをたたえた、恩田陸の5年ぶりの短編集。


朝日のようにさわやかに 朝日のようにさわやかに
恩田 陸 (2007/03)
新潮社

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さまざまな意匠をこらした14の短編を収載してます。それなりに怖いし、それなりに面白いですが、どれも「構え」が長編小説っぽいんですよね。

コクがあるけどキレがないというか。

短編だからオチで鮮やかに決め技を繰り出してもらいたいのですが、そのオチがどうもよくわからなくて、何度か読み返しても釈然としない作品がありました。(そりゃ私の読解力の問題でしょうか)



短編小説というよりも、長編を書くための「タネ」の段階でフリーズしちゃってる気がします。

やはり恩田さんは長編むきの作家なのでしょう。人気作家だけに、長編だけでなく短編の依頼もあるでしょうけどね。

わがままな読者の一人として希望を言えば、恩田さんには長さに縛られることなく、豊かなイマジネーションのおもむくままにストーリーを織り上げていただきたいと思います。



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[2007/10/08 11:33] 恩田陸 | TB(4) | CM(0)

恩田陸、NHK「失われた文明」プロジェクト【失われた文明 インカ】 

恩田陸がNHKスペシャルのスタッフとともに南米を旅し、インカ帝国の興亡に思いを馳せる。


インカ (NHKスペシャル 失われた文明) インカ (NHKスペシャル 失われた文明)
恩田 陸、NHK「失われた文明」プロジェクト 他 (2007/06)
日本放送出版協会

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これねぇ……著者名に恩田さんの名をつらねてしまっていいのかなぁ……。恩田さんが書いた部分は全体の3分の1ぐらいで、あとはNHKのディレクターさんと人類学者の先生が書いてます。

きっとオトナの事情というやつがあるんでしょうね。印税のこととか。それに人気作家の名前を出しておけば本が売れるでしょうしね。



それはともかく、わたし個人の事情でインカ帝国の本をいろいろと読んでいる昨今の私には、非常に興味深い一冊でした。

おもに書かれているのは世界遺産として名高い空中都市マチュピチュ。ここには一般車両が入れません。マチュピチュへ行くにはクスコから電車で4時間かけて山を降り、そこからシャトルバスで再び山を登ります。

マチュピチュへの入場券とシャトルバス料金がセットになっているそうです。

まあ一大観光地と言ってしまえばそのとおりですが、そこはイマジネーション豊かな恩田さんのことですから、なにかこうマチュピチュ独特の雰囲気といったものを鋭く感じとるんですね。

「放置された巨石に何かの顔が見えたような気がしてぎくりと」したり、「影や光の動きにも、何かの意味があるのではないか」と思ったり、「チラリと視界に入る景色が、どれも計算されていることに」気づかされたりするわけです。

そこから小説の「タネ」が浮かぶ。

本書でちらちらと披露された「タネ」が今後どんな小説になっていくのか、あるいは既に育って作品として一人歩きしているのか。そういうことを一人ひそかに探ってみるのも、恩田さんの小説を読む楽しみにつながるのかもしれません。



それにプラスしてNHKのディレクターの番組制作ウラ話や、人類学者によるインカ帝国の説明があるわけですから、これはもう「一冊で三度おいしい本」ということになるでしょう。

もろもろのオトナの事情も大目に見ます。



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[2007/10/06 14:12] 恩田陸 | TB(0) | CM(0)

恩田陸【木曜組曲】 

天才と呼ばれた耽美派の作家「重松時子」に大きな影響を受け、時子の死後もその影響から逃れられない女性作家たちが年に一度、集まって生前の時子を偲ぶ。その日が今年もやってきた。

彼女たちは時子の親族であり、同じ作家として喜びや苦労を分かち合える仲間であり、手段を選ばず蹴落としたい敵どうしでもあった。

時子の死には謎が多い。警察の捜査では「自殺」とされたものの、彼女たちは様々な思いを胸に抱え込み、それをはっきりと言葉にすることができない。

この膠着状態を破るべく、一計を案じた者がいた。


木曜組曲 木曜組曲
恩田 陸 (2002/09)
徳間書店

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女たちは戦いの幕を開ける。それは作家の豊かな想像力ひとつを武器として繰り広げられる心理戦だ。身体ではなく、心にザックリと傷がひらいて血が流れ出る。

そんな中でも女たちは大いに酒を飲み、大いに美味いものを食べる。天才作家の死の真相がどんなものであろうと、朝と夜は代わる代わる訪れる。人は眠り、目覚め、食事をする。

天才作家から受けた影響がどんなに重く大きいものであっても、それを女たちは養分として吸収し、自分の花を咲かせようとする。

頭の中は妄想でいっぱいなようでいて、その片隅にある醒めた目が現実を見すえている。



美しくて怖くて、食べものが美味しそうで、女たちの服装まで細かく描写されていて、本当に五感を刺激されそうな作品。

あ、そうだ。

自分でもワインを飲みながら、本書に書いてあるものと同じものを食べながら読めば、完璧に五感に来るね――って、お行儀わるいですね。はい。せっかくの本を汚しそうなので、そういうことはいたしません。



作品中の女性たちの関係はかなり複雑。

「とにかく重松時子の親族なんだ」と大ざっぱに捉えるか、系図を書きながら読むかは読者の自由。

私は系図を書いてみたけど、それもけっこう楽しいよ。


[2007/07/17 16:00] 恩田陸 | TB(1) | CM(5)

恩田陸【酩酊混乱紀行『恐怖の報酬』日記】 

本書を読めば恩田陸さんの嫌いなもの・好きなものが丸わかり。

そして恩田さんの読書量の膨大さ、観た芝居の数、イマジネーションの豊かさもよくよくわかる。


酩酊混乱紀行『恐怖の報酬』日記 酩酊混乱紀行『恐怖の報酬』日記
恩田 陸 (2005/04/23)
講談社

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本書によれば恩田さんは「普段から妄想はしている」そうだ。

旅先では、ふだん目にしない光景を見ながら、目の前に浮かんでくる何かをじっと待つ。「小説のストーリーを考える」という作業とは少し違う。ゲームというか遊びというか。

小説はタイトルから考えるという。「気に入ったタイトルを考えて、それに合う話を考える」と恩田さんは本書で語っている。タイトルをまとめて考えてメモしておくそうだ。

いざ小説を書くときは、全体の設計図を前もって考えておくようなことはせず、とりあえず書き始める。途中で「このへんでこういう伏線を張っておこう」「こういうセリフを言わせよう」などと勘が働くという。



うーん。やっぱり凄いわ。恩田さん。

先日、恩田さんの【中庭の出来事】という目まいのするような作品を読んだばかりである。ああいうものを

勘で書く

のか……。



本書は、ちょうど恩田さんが【中庭の出来事】を「ケータイ小説」として連載しておられた当時に書かれたエッセイ。

【中庭の出来事】をお読みになったかたは、本書も読んでみると、なかなか面白いと思います。



ちなみに恩田さんが飛行機内の持ち込み用にと購入された革のカバン、本書に写真が出ていたが、私も欲しいわ〜。

機内持ち込み用じゃなくても便利そうだもの。


[2007/05/14 14:45] 恩田陸 | TB(1) | CM(0)

恩田陸【中庭の出来事】 

すごく面白かった。


もうその一言しか書きたくない。というか書けない。ヘタに内容を書くとネタバレになってしまいそうだ。



ひとりの女が中庭で命を落とす。血のように赤いワインを飲んでいたその唇から、赤い血が長い筋を引く。

女を演じるのは鈴木京香さんがいいだろうか――と思いながら先を読み進んだが、これは素人の妄想キャスティングを簡単に許すほどヤワな小説ではないのだ。



一方、別のところでは大学生の女の子が急死する。その原因は不明。

この女の子を3人の人間が、3方向から目撃している。一人は女の子が「笑っていた」と言い、もう一人は「ハンカチを目に当てて泣いていた」と言い、さらにもう一人は「罵声を上げて怒っていた」と言う。

同一人物を見ているのに、3人それぞれ違うことを言う。

女の子には連れがいなかった。たった一人で、しかも野外である。よほど悲しいことがあれば泣く人はいるかもしれない。だが一人で笑うか怒るかしている人を想像してみてほしい。

ちょっと怖い。



恩田さんはちょっと怖いものを書くのが巧い。

夜に読んで「怖い」というよりも、よく晴れた日中に静かなところで本を一人で読んでいて、ふと顔を上げたところに不可思議なものが出現しそうな気がする、そんな怖さ。



同じような場面が何度か繰り返して描かれるが、まったく同じではない。どれも少しずつ違っている。

それらを読んでいるうちに、ゆるゆると迷宮にひきずりこまれていくような感覚をおぼえる。



この作品、初出は「ケータイ小説」だそうだ。こんなにイメージ豊かな小説を携帯電話の小さな画面で読むなんて、冗談じゃない。

本になってよかった。



中庭の出来事 中庭の出来事
恩田 陸 (2006/11/29)
新潮社

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[2007/05/07 15:48] 恩田陸 | TB(10) | CM(4)

恩田陸【クレオパトラの夢】 

頭脳明晰にして容姿端麗なる男、「神原恵弥(かんばら・めぐみ)」。中肉中背で短髪で、革パンツもブーツもムートンのコートも全部、黒。格闘技に強く、ナイフの使い方やシューティングテクニックにも長けている。

さてはハードボイルド系のイケメンかと思いきや、その口から出るのは


「あたしはかよわいし寒さにも弱いのよッ」


みたいなオネエ言葉なのであった。

妄想キャスティングとしてパッと頭に浮かんだのが山咲トオルちゃん。最後の1ページまでこの人のイメージで読みきった。トオルちゃん、アクションはいけますかね?


20070307161437.jpg



私は知らなかったけど、恩田陸の作品で「神原恵弥シリーズ」というのがあって、第一作は【MAZE(メイズ)】、第二作が本書だそうだ。三浦しをんによる解説(三浦さんなら、こういう作品は好きそうだね)によれば、【MAZE】を読んでいなくても本書を読むには支障がないとのこと。なんにも知らずに本書を買ってしまった私は安心した。


MAZE MAZE
恩田 陸 (2003/11)
双葉社

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物語は、恵弥が北国のH市を訪れ、「なによこれ、寒いじゃないの」とブーたれるところから始まる。

しかし私は「H市」という書き方にブーたれる。どこからどう見てもH市は「函館市」以外の何物でもない。「五稜郭」を「G稜郭」と書くのも、なんだかなあ。正体がバレバレのイニシャルトークに意味があるんだろうか。(そういえば私、中学校の修学旅行は北海道だったなあ)



さて恵弥(めぐみ)がH市を訪れたのは、不倫相手を追いかけていった双子の妹「和見(かずみ)」を実家に連れ戻すため。

しかし、不倫相手である大学教授の「若槻」が死亡したことを和見から聞かされ、驚愕する。製薬会社の研究室に勤める恵弥は、ひそかに若槻と会う約束をしていたのである。

和見は若槻の手帳に『六時に東京駅。M。クレオパトラ』と書き残されていたのを盗み見て、Mが自分の兄であることを察知していた。

「クレオパトラって何?」

そう和見に詰め寄られても、恵弥は国家をも揺るがしかねない秘密を明かせない。

そのうち恵弥たちの背後には尾行がつくようになり、ついには和見が姿を消した。「クレオパトラ」をめぐる人々の思惑の渦に、恵弥たちは巻き込まれていく。



恵弥は頭の回転がよく、記憶力にも観察力にも優れ、オネエキャラの割りに腕っぷしが強い。どんな事件・事故が起ころうと安心して読んでいられる。

しかし頭の回転がよすぎて、思い込みだけで先走ってしまう傾向がある。そのため製薬業界や関係当局に思わぬ騒動を招くことになる。



すごく引き込まれて短時間で読みきったが、ミステリー小説がお好きな方にはオチのつけかたに不満が残るかもしれない。

謎解きよりは、イケメンのオネエキャラ神原恵弥の活躍を楽しむべき作品。



クレオパトラの夢 クレオパトラの夢
恩田 陸 (2006/12)
双葉社

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[2007/03/07 16:18] 恩田陸 | TB(7) | CM(0)

恩田陸【ドミノ】 

恩田さんは作家になる前、たしか保険会社に勤めておられたのではなかったかな? エッセイ【小説以外】に書いてあったような気がするけど。私の記憶が間違っていたらごめんなさいね。

なぜそんな話をするかというと、この【ドミノ】という小説が生命保険業界の話から始まるからだ。

本書9ページ。

≪関東生命では、七月、十一月、二月が「記念月」と呼ばれる営業強化月間である。(中略) ちなみに、なぜか十一月は「生命保険の月」と業界全体で決められているため、十一月戦が最も重要とされている。≫



実を言うと、うちの母は生保会社の営業職員として勤続○年。ベテランと呼ばれる域に達しながらも、お人好しすぎる性格のせいか営業成績でトップを飾れずにいるが、まぁそんな話は脇へ置こう。(お母さん、ネタにしちゃってゴメンね)

その母に「記念月」の理由を問うと、「7月と11月は世間ではボーナス月でしょ。2月はウチの会社が決算なのね」という話。生保業界では各社が足並み揃えて「7月・11月・2月」を営業強化月間としているらしい。

私は母の会社をのぞいたことはないが、想像するに、営業強化月間には朝礼で「みんなで一丸になって頑張りましょう! えいえいおー!」などと発破をかけられるに違いない。

いくら発破をかけられても保険の契約がとれるかどうかは別の話なのだが。



こういう苦労を知らぬ優雅な若者どもよ、わかるかい!? あなたのお父さんお母さんの頑張りが、あなたの暮らしを支え、ひいては日本経済を支えているのだよ。

とはいえ、若者たちにこういうものを「わかれ」と言うほうが無理なのだ。だから私はサラリーマンの悲喜こもごもを描いた奥田英朗の小説【マドンナ】について「若者が読むのは自由だが、5人の課長さんたちの心情を理解できるかどうかは別の話」と当ブログに書いた。

あちこちのブログを拝見すると、これをお読みになった若い人がいるようだが、作品のよさを理解できてはおられないようだ。なにも無理して読まなくてもいいのよ〜。あなたも年齢を重ねればわかると思うわ。



……閑話休題。

営業強化月間の最終日に何が起こるかは、生保業界に限らず、普通の会社員なら誰でも想像がつくだろう。

営業職員が契約書類を持って駆け込んでくる。その書類を事務職員がオンライン処理する。上司のハンコをもらう。経理担当者が入金をする。事務処理を終えた書類は本社へ提出しなければならない。その間に締切時刻が着々と迫ってくる――



小説【ドミノ】に登場する関東生命八重洲支社の事務職員は、書類を何としてでも締切に間に合わせるため、宅配ピザ屋のバイクを手配した。

このピザ屋の店長が実は暴走族のメンバーで、嵐のようにバイクを飛ばし、人々を騒動の渦に巻き込むのである。

もと暴走族のメンバーで今はカタギの生保会社の事務職員が、現役の暴走族メンバーと交わす会話が実に可笑しい。

「エリコ姉さん! すんません、未熟者で」

「大体、あんたは見た目に騙されすぎだよ。マッポの数自体は大したことないだろ。せっかくのバッファロー号が泣いてるじゃないか!」

うーん。やや時代錯誤ぎみの暴走族。



この騒動が他の騒動と絡み合い、まるでドミノ倒しのように新たな騒動を次々と巻き起こす。

そこにサラリーマンの「悲哀」のようなものはない。課長さんも部長さんもOLさんも、そして優雅な若者たちも、みんな笑って読める小説である。



登場人物の数は多いが、「わけわかんなくなるかも……」という心配はいらない。イラストつきで登場人物が紹介されている。また、小説の舞台となる東京駅の構内図もついている。

なんと読者に親切な本かしら♪

それに恩田陸は場面の書き分けがすごく巧い。5つぐらいの筋が絡み合うが、読んでいて混乱はしない。それぞれの場面を別々のカメラで追うように、明快に描いている。



ただし、登場人物の言葉づかいが少し変なところがあって、そこは残念。

28歳の女性が、会社で部長(48歳)からの電話を受けて、「あたしよ、部長。今どこ?」なんて言わないでしょう、普通。不倫相手との会話じゃないんだから。

恩田さん、こういう細かいところで会社員経験を生かしてくださるよう、くれぐれもお願いいたします。



まぁ小さな難点はあるものの、すごく面白いので、まずはご一読を。




ドミノ ドミノ
恩田 陸 (2001/07/27)
角川書店

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[2006/09/25 16:24] 恩田陸 | TB(27) | CM(9)

恩田陸【夜のピクニック】 

夜は人の心に魔法をかける。ふだん言えないことが言えてしまう。自分の秘密を人に話したくなる。

あんまり好みのタイプではない男性なのに、夜の車の中だと、ちょっとイイ男に見えたり。(すみません。若気の至りです)

高校生の男女が修学旅行の夜に……いろいろあったり。(私は女子高だったので、修学旅行の夜に色っぽい思い出は一つもない。残念)



「夜のピクニック」とは、主人公が通う高校の行事――朝8時から翌朝8時まで、深夜の仮眠をはさんで80kmを歩き通す「鍛錬歩行祭」のことである。

この設定は絶妙だよね。修学旅行ではいかんのだ。男と女がいて布団があったら、その先の展開は一つしかないんだから、小説にならない。

さわやかな青春小説には、やはり「歩行祭」がふさわしい。

しかし、そこに


夜が魔法をかける。


ただ歩くだけでは済まない。

気になる異性にアプローチするチャンスがあるかもしれないし、友達どうしで自分の秘密を打ち明け合うなんてことも、つい夜の闇にまぎれて、やってしまうかもしれない。



さて主人公の「西脇融(にしわき・とおる)」と「甲田貴子」は、異母きょうだいである。

融の父親と、不倫関係にあった女性とのあいだに生まれたのが貴子。

貴子の母親はシングルマザーで、さばさばした性格。娘の貴子には出産時の事情を話してある。しかし融の母親は、甲田家の母娘を快く思っていない。そりゃそうだろう。夫の不倫の相手だ。

融と貴子は、それぞれの母の思いをダイレクトに受け継いだ。貴子は淡々と事実を受け入れ、融は貴子に対して暗い感情を抱くことになった。



そんなわけで、高校3年で同じクラスになった2人の間には、ぎこちない空気が流れている。

このまま言葉も交わさずに卒業してしまっていいのかしら――と貴子は思い、高校最後の歩行祭で融に話しかけるチャンスをうかがう。



恩田陸は「場の空気」を書くのが巧い人だ。

ある一点を「これでもか、これでもか!」てな勢いでグイグイ掘りさげて書く角田光代の作品と比べると、その違いはわかりやすいと思う。



【夜のピクニック】は、大ざっぱに言えば、「込み入った人間関係」と「場の空気」の2つで成立している小説。

恩田陸の「異母きょうだい小説」といえば、【まひるの月を追いかけて】もある。

こちらは登場人物がすべて成人の男女で、【夜のピクニック】よりさらに人間関係が込み入っており、舞台が寺や神社の多い奈良ということもあって、作品に一種異様な空気が漂っている。

アマゾンの読者レビューでは「結末に不満」という意見も多いようだが、スカッとした結末を求めて読む作品と、「空気」を味わいながら読む作品は別物なのだと私は思う。



【夜のピクニック】では、「歩行祭」のゴールがある分、【まひるの月を追いかけて】よりも結末がわかりやすい。

恩田陸が紡ぎだす物語の空気と、自分自身の高校時代の思い出を重ねながら読んでも楽しめる。



私は高校時代に毎年、ロードレースで走らされてヘロヘロになったことを思い出す。もちろん「歩行祭」とは違うし、女子高だったので、色気も何もありゃしないが。

その女子高は、ちかごろ男女共学になった。修学旅行の夜には楽しいことがいろいろありそうで、ちょっと羨ましい。

ああ青春の日々が遠くなる。



≪追記≫

映画『夜のピクニック』のキャストは下記の通り。

いつもの妄想キャスティングではなくて、本物の映画の話です。お間違えのないように。


「甲田貴子」 多部未華子
「西脇融」 石田卓也
「戸田忍」 郭智博
「遊佐美和子」 西原亜希
「後藤梨香」 貫地谷しほり
「梶谷千秋」 松田まどか
「高見光一郎」 柄本佑
「内堀亮子」 高部あい
「榊杏奈」 加藤ローサ
「榊順弥」 池松壮亮



夜のピクニック 夜のピクニック
恩田 陸 (2004/07/31)
新潮社
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[2006/09/06 16:35] 恩田陸 | TB(81) | CM(32)

妄想キャスティング――恩田陸【チョコレートコスモス】 

この本を読んでいて、ヒロイン「佐々木飛鳥」を演じる宮崎あおいのイメージが頭に浮かんでずっと消えなかった。



ぱんどらの妄想キャスティング、主役の「佐々木飛鳥」は宮崎あおいに決定。

宮崎あおい




難しいのは、演劇一家に生まれた若手実力派女優「東響子」である。

とりあえず思い浮かべたのは、松たか子や寺島しのぶだが、このご両人は芸達者ではあるにせよ、雰囲気がカジュアルすぎるのだ。



なにしろ『ガラスの仮面』の「姫川亜弓」に相当する役柄である。

「おーっほっほっほ! よろしくてよ!」とは言わないまでも、大きく巻いた髪やヒラヒラしたお洋服が似合う(なんだか叶姉妹みたいだね)ゴージャス感が欲しいではないか。

かといって芸達者でゴージャスな若手女優ってどこにいるんだ。



悩んだ末、「東響子」には、黒谷友香を選んでみた。


黒谷友香




チョコレートコスモス チョコレートコスモス
恩田 陸 (2006/03/15)
毎日新聞社

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[2006/07/11 15:26] 恩田陸 | TB(26) | CM(10)

恩田陸【チョコレートコスモス】 

森山良子のアルバム【あなたが好きで】に収録されている『30年を2時間半で……』という曲をご存じだろうか?


あなたが好きで あなたが好きで
森山良子 (2004/12/29)
ドリーミュージック
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厳密に考えて、これを「曲」と呼んでいいかどうか私にはわからない。音楽は流れるが、森山良子が歌う部分はほんの少しで、あとは延々と「語る」のだ。そして一人芝居をする。

若い時代をとうに過ぎた女性が、買い物をしている。バッグには泥つきゴボウなんかが入っている。そんなとき、たまたま昔の恋人に再会した。懐かしい。年をとっても昔のままね。声をかけようかしら。でも、こんな格好を見られたくないわ……。

こんなセリフが続く。女性版の綾小路きみまろかい。歌手としては大御所の森山良子が何もそこまでしなくても――と最初は思ったが、しだいに引き込まれた。9分にわたる長い曲だが、ほんの2分ほどにしか感じられなかった。

テレビ画面の中央に椅子がある。曲(芝居と言うべきか)の途中で、森山良子は椅子の背に胸を向けて腰かける。椅子の背にひじをかけ、足を組むと、「これは男性を演じているのだ」とわかる。ひじをおろして足をそろえると、森山良子は「昔の恋人に再会して照れている女性」に変身する。

そこにいるのは森山良子ひとりだが、見る者には、30年の時を超えて胸をときめかせる男女の姿がくっきりと浮かぶのだ。



ひじの上げ下げで男女を演じ分けるという演技プランを考えたのは、森山良子だろうか。それとも演出家みたいな人がいるのだろうか。どちらにしても、素人とは目のつけどころが違う。だれかに演技をつけてもらうとしても、それを自然にこなして見る者を魅了する森山良子の演技力は凄い。

そのとき私が見ていたテレビ番組は、TBS『ぴったんこカンカン』だった。レギュラー出演者には、お笑い系女優(もともと劇団出身だよね)の久本雅美と、実力派(なのにバラエティばっかり出てる)女優の杉田かおるがいる。大物女優の二人が、森山良子の一人芝居に完全に魅せられていたのである。



これが、あの大長編演劇漫画『ガラスの仮面』だったら、みんなで青い顔してゾーッとするところだ。


ガラスの仮面 (第23巻) ガラスの仮面 (第23巻)
美内 すずえ (1999/09)
白泉社

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私は昔から『ガラスの仮面』が大好きだ(が、近年は結末が見えないことに苛立ち、あげくの果てにはどうでもよくなりつつある)。

恩田陸は『ガラスの仮面』に敬意を表する意味で【チョコレートコスモス】を書いたらしい。しかしヒロインの「佐々木飛鳥」は、『ガラスの仮面』の「北島マヤ」とは少し違う。

北島マヤは、学校の成績も運動神経も悪くて、そそっかしくて、大して美人でもない(少女漫画のキャラだから充分にキラキラして美人に見えるけど)という少女だが、演技の才能だけは群を抜いている。

恩田陸が考えたヒロイン「佐々木飛鳥」は、身体能力に優れ、学校の成績もよい。東京の有名大学の学生である。勘のよさも、大人と張り合う度胸も、大人に不快感を与えないマナーも備えている。



『ガラスの仮面』初期の北島マヤは、俳優のセリフや動きを一度見ただけで記憶して再現する「模倣」の能力にたけていたが、自分で演技プランを考えられないのが欠点であった。

「若草物語」のベス役に抜擢されたマヤは、どうベスを演じていいのかわからず、月影先生に「今日からベスとして生活しなさい」と言われ、学校を休んで、編み物をしたり猫と遊んだりして「若草物語のベスの暮らし」を模倣し、その果てにようやくベスという役柄をつかむ。



ところが佐々木飛鳥は、学生の演劇サークルで月影先生みたいな指導者もいない中、短期間で仕上げなければならない舞台の台本を渡され、なにやら小難しい役柄を演じろと言われても動じず、自分で演技プランを立てて堂々と演じきるのだ。

飛鳥の存在は業界人の目にとまり、オーディションを受けてみないかと誘われる。やがて飛鳥は「東響子」という演劇一家に育った若手実力派女優(つまり『ガラスの仮面』の「姫川亜弓」みたいな存在)と渡り合うことになる。

いくら才能があるとは言え、飛鳥にとっては右も左もわからない演劇の世界。それなのに、「鬼才」と呼ばれるプロデューサーに難しい課題を突きつけられる。

たとえば、台本には3人分の役柄が書いてあるのに、役者は2人しかいない。あとは自分で考えて演じてください――って、


そんなもんできるかぁぁぁっ!


と、私だったらキレるところだ。

この難問を飛鳥はどうやって切り抜けるのか? ページをめくらずにはいられない。昔、『ガラスの仮面』を読みながら味わった緊迫感を、小説【チョコレートコスモス】は見事に蘇らせている。



しかしまぁ、こんな訳の分からんオーディション課題や、飛鳥の演技プランを、作者の恩田陸はどうやって考えつくのか。さすがに当代きっての人気作家。イマジネーションの豊かさは驚異的だ。



ちなみに『ガラスの仮面』のあまりにも遠大なストーリーの結末について、美内すずえさんが「私の中ではちゃんと結末まで見えていますよ」という意味のことを、どこかで語っておられたと聞く。

読者としては、それを早く作品として出してくださることを強く望みます。



チョコレートコスモス チョコレートコスモス
恩田 陸 (2006/03/15)
毎日新聞社

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[2006/07/11 14:52] 恩田陸 | TB(41) | CM(22)

恩田陸【小説以外】 

小説家の書くエッセイは好きだが、エッセイストが書くエッセイはあまり読まない。

そんなこと言ったらエッセイストの皆様に失礼だが、私は「エッセイというジャンルが好き」というより、


「小説家の私生活を、ちょっとだけ見てみたい」


という気持ちが強いようだ。



小説家の私生活は地味だ。ちゃんとした小説家であればあるほど、その生活は地味なものになる。決められた期限内に原稿を書き上げなければならない。もちろん人気小説家なら執筆依頼が山のように寄せられているはずで、当然ながらテレビに出てる暇などない。(テレビに積極的に出る作家は、あまり私の好むところではない)

原稿を書く、三度の食事をする、締切に追われる、たまに旅行する――そんな感じの、ちゃんとした小説家の地味なエッセイが好きだ。

ひところは村上春樹のエッセイが出版されるたびに買い、むさぼり読んでいた。食べ物の描写が美味しそうなのがいい。その食べ物が、一般家庭で手に入れられる庶民的なものであることも嬉しい。しかし近年の村上春樹先生はアメリカ滞在が多くなり、お書きになるエッセイも私の好みとは少しばかり方向が違ってきているようだ。

食べ物系では何といっても向田邦子のエッセイ【夜中の薔薇】が絶品。レシピが書いてあったりもして、自分で作ろうと思えば作れる。

エッセイと言えば、このまえ角田光代の【今、何してる?】を読んだところだが、これは食べ物うんぬんというより、まるで友達と酒を飲みながら喋っているかのような親しみやすさがあり、それでいて小説のような話のふくらみがある。角田光代はエッセイを書くのが得意なんだろうな。



いっぽう、恩田陸はそんなにエッセイが得意ではないようだ(とはいえプロだから、書けば素人の手が及ばないレベルに楽々と到達するのだけど)。これまでに書いたエッセイの数はそれほど多くないらしいが、エッセイ集【小説以外】が出ているって、どういうことよ。

種明かしをすると、このエッセイ集には、他の作家の文庫本のために書いた解説までもが集められていた。

そこまでして無理やりエッセイ集を1冊つくってしまうのもどうかと思うが、それは恩田陸の意向というより、人気作家の恩田陸で商売しちゃうぞ、という出版社の意向だろう。作家が「本を出しましょう」と言われて断るはずもないだろうし。



しかし読めば面白い。やはり出版社の狙いは正しかった。

小説家のエッセイ集を読むと、その人の小説の「核」みたいなものが見えてくる。たとえば角田光代なら「普通であること・普通でないこと」という感覚から小説が生まれてくるようだ。

恩田陸の「核」は「怖いもの」だ。



たとえば、たまたま街で見かけた美しい女性が大きな人形を布にくるみもせずに抱きかかえて歩く姿を、恩田陸は「怖い」と思う。

これはわかる。私も何年か前に東京のどこかの店で食事をしていたとき、ヤクザふうの男性が大きな人形を本物の子供のように抱いて歩く姿を見かけた。東京って、すげー怖い、と思った。

で、ずぶの素人である私は「すげー怖い」と思うだけだが、恩田陸は「怖いもの」からいろいろとイマジネーションをふくらませるわけだ。



ホラー、サスペンス、SFといったジャンルの「怖い」小説や映画が大好きみたいだし。その読書量たるや、シロウト読書ブロガーの数年分、といった感がある。しかも未読の本が自宅に山のように積んであるにも関わらず、「面白い本はないか」と絶えず探しているという。

そして、面白い本に出会うと、


「私もこんな本を書く作家になりたい」


と、人気作家になった今でも思うそうだ。



いっぽう、面白くない本に出会ったときは、「面白くない!」と思いながら最後まで読みきり、そんな本を読まされた恨みをずっと抱えているらしい。そして「面白い本を書いてやる!」というパワーに転換しているようだ。

どの本が面白くなかったのか、さすがにそこまでは書いていないが、「なによ、この本!」とかブツブツ言いながらページをめくる恩田陸さんの姿を想像すると、私は面白くて面白くて仕方ない。




小説以外 小説以外
恩田 陸 (2005/04/27)
新潮社
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[2006/07/10 15:57] 恩田陸 | TB(11) | CM(4)

恩田陸【まひるの月を追いかけて】 

ほぼ1年ぶりに恩田陸の本を読んだ。どうも超能力ものの小説とは相性がよくないので、あまり近づかないようにしていたのだ。



【まひるの月を追いかけて】は、超能力のない普通の人間が登場するシリアスな心理劇である。

恩田陸作品には、こういうものもあるんだなぁ。これから恩田陸作品をもう少し読んでみようと思うけど、できれば「超能力もの」と「それ以外の作品」と、区別できるように印をつけてもらえたら大変ありがたい。

たとえば、

「光の帝国――常野物語  (チ)

とか。だめかな? だめだね。大木こだま・ひびき師匠の「チッチキチー!」のパクリかと思われそうだ。



……戯言はさておき、本の話に戻る。

この本を読むなら、まず天気から選びたい。雲ひとつない快晴はだめ。土砂降りの日もだめ。

雲に覆われて、雨が降るのか降らないのか微妙な感じの曇り空が最適。



ヒロインの「静」は、駅を発つ新幹線の窓から、灰色に曇った空を眺める。となりの席には「優佳利」という女が座っている。静とは特に親しい間柄ではない。

2人が旅に出たのは、「研吾」という男と会うためだ。



特に親しくもない人間どうしで旅をする女2人。

怒りに満ちた目で2人を出迎える研吾。

3人は奈良の明日香村を歩きながら、心がザワザワと落ちつかない。ときどき、そこにいるはずのない人間の影を見た(ような気がした)りする。

でもホラー小説ではない。

そういう心理状態に陥っても不思議はなさそうな深い事情が、この3人にはあるのだ。


ここで多くを語って読み手の楽しみを奪うような不粋な真似はしたくないから、このへんでやめておこう。



新幹線が駅をゆっくりと離れていくように、静かに、普通に始まり、新幹線なみの加速度で引き込まれていく。そんな小説である。





恩田陸【まひるの月を追いかけて】
文藝春秋 1680円
まひるの月を追いかけて



[2006/06/03 16:31] 恩田陸 | TB(9) | CM(6)

妄想キャスティング――恩田陸【まひるの月を追いかけて】 

本を読みながら、「これを映像化するとしたら、キャスティングをどうするか」を妄想するのが大好きだ。

その妄想どおりに、


脳内DVDプレイヤー


が作動した状態で本を読みつづけていることさえ、ある。

脳内DVDのバックアップをとるため、ブログ記事にしてみた。



今回のお題はこちら。映像化するなら、衛星放送の単発ドラマがいいかも。



恩田陸【まひるの月を追いかけて】
文藝春秋 1680円
まひるの月を追いかけて






以下、妄想キャスト案。


「静」 京野ことみ。

京野ことみ



「優佳利」 本上まなみ。

本上まなみ



「妙子」 りょう。

りょう



「研吾」 藤木直人。

藤木直人





あくまでも私の妄想に過ぎませんので、どうかお読み流しください。

「この本を読むたびに京野ことみや本上まなみの顔が頭にちらついて仕方ない」と言われても責任はとれません。あしからず。


[2006/06/03 16:00] 恩田陸 | TB(2) | CM(4)